Alejandro Chaskielberg


とくにホームページとかでは何の告知もなかったのですが、「実は本人来るんですよー」っていう話を前回のRalph Gibsonの展示のときにGallery 916のスタッフの方に聞いていたもので、ちゃっかり行って来ました。Alejandro ChaskielbergのHigh Tide(満潮)展、展示初日。ギャラリー内で御本人をお見掛けしたら、ドレッシーな青シャツの好青年風(といっても35か?)にNicole Kidmanみたいな美人の嫁さんと、まさにというか、玉のような赤子を伴ってらっしゃいました。えーと、読めませんか。アレハンドロ・チャスキエルベルグ、ね。

彼は2011年にSony World Photography Awardsという世界最大級の写真賞、えー、以下を

御覧の通りに超絶ハイレベルな中をPhotographer of the Yearを受賞したというアルゼンチン、Buenos Aires出身で77年生まれの若手、先日のRyan McGinleyに続きこちらも、今もっとも旬な写真家なのは間違いありません。いやー、ほんと今月は充実しているな。

何やら聞いた話によると、彼の写真は基本的に月光で何分も露光させて撮るという。風景写真でそんなのを撮る人は日本人の写真家でいた気がしますが、彼の場合は写っているのは人であります。一体どうやって撮るので? と思うのが普通でしょう。どうやって撮るのかは916の方から、伺ったら普通に聞けました。なんとポジを使用。4×5(Sinarらしい)で、手前の人物だけフラッシュを焚いて写して、あとは長時間露光で背景を写し込む。それを現像の後にフィルムスキャン、で、たぶん多少いじってからラムダで出力、らしい。と聞いて、技術的には真似出来なくはないとは思うのだけれど、途方もない手間が掛かるのは間違いないので私は御免ですわ。長時間露光によるものか、ライアンとは別のベクトルの特徴的な色、とくに空の蒼さとか黒人の肌の黒い煌めきとか(これは実際見ないと文章では伝えようがないですが)が非常に印象的。確かにこれは、今までにはない感じ。

画質的には明らかに中判以上なのはわかったのだけど、普通フィルムでこれをやるか? と思いました。デジバックでやると都合が悪いことがあるのか。素子が過熱するか? まあ多少の粗をデジタル補正出来るようになったからこそ可能になった表現なのか。少なくとも今更フィルムでなきゃ、とかデジタルでなきゃ、とか言っている人間には出来ないことですな。別に、双方を上手く使えばいいだけのことです。なんかケータリングの料理もタダでどうぞとのことで、蟹だのなんだのにワインにビールまでいただいてしまいまして、非常に申し訳のうございました。いや実に素晴らしかったです。それも含めて。なお、以下はただの無駄知識ですので読み飛ばしていただいても結構です。

AlejandroというのはAlexandrosのスペイン名なんですが、これはギリシアに由来する名前でΑλέξανδρος(アレクサンドロス)というのはホメロスのイーリアスに出てくる、トロイアの美貌の王子パリス(Πάρις)の別名だったりします。そのパリスがスパルタ王妃の娘である絶世の美女ヘレネー(Ἑλένη)をさらったことからトロイア戦争が引き起こされたとされているわけなのですが、そんな小ネタがアメリカのDavid Marksonという人のWittgenstein's Mistressという小説に出てきたのを、彼の名前を見て思い出しました。大学時代に某なアメリカ文学の先生の演習で読んだ小説なのですが、これが実にヘンな内容で、夫と息子を亡くしThe last woman on the earthな状態になっている妙に絵画やらギリシア神話やら哲学やらに造詣の深い中年の女が、自分以外は誰もいないもんだから夏場は主に裸で過ごし、冬場はといえばナショナル・ギャラリーだのメトロポリタン美術館だのに住みつつ、暖を取るためにその辺にある絵画を燃したりしながら上記のような無駄知識を吐露しまくるという話で、えー、まあなんのこっちゃやらわからないと思いますが、少なくともネット上には日本語で書かれた感想は一本もないと思われるので(未訳だし)そのうちこの本の書評もアップしようと思っております。

ちなみにロシアではわりと人の名前を愛称で呼ぶのですが、Саша(サーシャ)というのはАлександр(アレクサンドル)という男性名、またはАлександра(アレクサンドラ)というそれの女性形の愛称です。というような本当にどうでもいい知識をところ構わず発露してしまうあたり、Wittgenstein's Mistressの女と私の性格は実に似ているなあと思ってしまうのでした。いやあ、大分脱線しましたなあ…

916の次回の展示は有田泰而氏、昨年亡くなられた上田さんの師匠の作品の展示とのことです。

Gallery 916

Alejandro Chaskielberg

Ralph Gibson

Wittgenstein's Mistress

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