Thomas Demandに会ったりする


トーマス・デマンドで検索するとわりと上位に坂井真紀さんのBlogが引っ掛かりました。これ。
http://sakaimaki.jp/blog/5568

好きなのか。意外ですな。今回の企画展に合わせてわざわざデマンドさん本人がいらっしゃるということなので、行ってくることにしたのだけれども、なかなかデマンドなんて知っている人間は少ないのではないか、人、集まるのか? と思っていたら甘かった。開場30分前の時点で定員200名に対して軽く100人以上は列をなしていました。しかもなんか外国人の姿もちらほら、海外の方が人気高そうだもんねえ。日本人もなんか心なしかその多くから芸大生とか芸術学系の院生とかそんな風な感じが醸し出されていたり。

画像の位置の良席を確保してしばし待つ。席に座り切れなかった人たちにはクッションが配られ、彼らは床に腰掛けていました。こんなに人気があったとは。さてそれでは、トークの開始であります。登壇者は企画者及びチーフキュレーターの長谷川祐子さん、わりと有名人な方ですね。通訳は横田佳世子さん(彼女はTillmansが来日時にトークをしたときも通訳をされたようです)で、デマンド自身の語り口もジョークを絡めながらではあったのだけれど、その雰囲気も巧く訳している感じ。横田さんが独特の間を持っていてこれがかなり面白い。

トークの内容をここで細かく列挙することは面倒なのでいたしませんが、話を聴いていて思ったのはそもそもThomas Demandという人は正確には写真家というよりは現代美術家と言った方が正しいのかなと。どうもDüsseldorfは出ているけど、実際にはBecher-Schuleではないらしいし。彼の写真というのは、基本的に彼の手によって作られたペーパークラフトを記録したものなのですね。本当にリアルな椅子とか、実は全部が紙で出来ている。米国大統領執務室から美術館内の事件現場、さらには福島第一原発の制御室に至るまで、インテリアと彫刻を学んだ経験からとんでもない技術と労力を費やして(ほんとよくやるわ…)終いにはハリウッドのスタッフを動員してそれでアニメーションまで作り出すのだから恐れ入ります。それが今回の新作、”Pacific Sun”で、大嵐に遭遇した豪華客船の内部を監視カメラがとらえた映像(Youtube等でも流れた)を再現しました、と。しかし考えてみれば、それが美術史的、美学的にどう有用なのかは私にはよくわからないと言えば正直よくわからない。アプローチとしては、如何にもホンモノらしい偽物を提示するという点ではBecherというよりはむしろGerhard Richterのそれに近いような?

トーク終盤に質疑応答がいくつかあった後、彼に対する最後の質問は「あなたの作品にはいずれも人が出てきませんが、そのはどのような意図によるものか?」というものでした。彼は「必ずいる人が一人だけいる、それは自分自身です」と答えたのちに「3パターンの解答があります、1つ目は攻撃的なもの、2つ目は宗教的なもの、3つ目は裏話的なもの、どの答え方がお好みでしょうか?」と続け(この辺がウィットに富んでますね)すると本当は全部聞きたいのですが、と前置きして質問者の若い男性が選んだのは2番目。

デマンド氏の解答は、「キリスト教においてはカトリックだと十字架には必ずイエス本人が磔になっている、貴方たちの為にキリストは磔になって苦しんだのだ、ということを示すために。しかしプロテスタントの場合には、キリストの姿はない。これらのどちらかが優れているというわけではなく、2つの異なった在り方があるのだということ。」とだけ答えてやや唐突な感じでトーク終了となりました。まあ密度は濃かったですが、なんか核心的なところは上手くはぐらかされたような感じもなくはなく。Georges Didi-Hubermanを絡めて表象不可能性が云々みたいな話に持っていっても面白かったかもしれないけれど、参加者の大半が付いて来れないと思ったので止めておきました。(オトナだなあ、俺。)

展示の方は枚数自体はあんまり多くはなかったですが、まあ作風を考えればそう大量に製作できるような作風でもないわけで、それも致し方ないかなと。大型の作品が多くて見応えは非常にありました。東京都現代美術館というのはハコとして非常に素晴らしいので、少しでも興味のある方は是非行くべしでしょう。むしろ必見であります。

Thomas Demand展
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/134

Bernd and Hilla Becher(MoMA)
http://www.moma.org/collection/artist.php?artist_id=8095

Gerhard Richter
http://www.gerhard-richter.com

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